東京高等裁判所 昭和44年(ネ)927号 判決
本件事故は、白バイの進出を予測しなかつたため、これを発見するのがおくれ、しかもあわてて左転把、急制動の措置をとつた森正夫の過失により惹起されたものというべく、森正夫としては、前方注視義務を怠らず、矢作車の発進直後からこれを発見してこれに対応して運転しておれば、もとより、前記矢作車発見地点においても両車の車間距離、矢作車の加速状況を冷静に判断して、万一の場合に備えて応急措置をとりうる用意をしておくか、制限速度以上で走行していたとすれば、制限速度に減速する措置をとるにとどめておれば、本件事故の発生を防止しえた筈である。それにも拘らず、森正夫は狼狽の余り左転把、急制動の措置をとつたのであつて、本件具体的な場合において森正夫のとつた措置は何人にも予測しえない措置というべきである。換言すれば、本件において森正夫のとつた前記措置は、県道上に発進するに当つて、矢作英明にとつても予見可能な範囲を逸脱するものであつたものというべく、矢作英明にはこのような予見不可能な危険に備えてその発進を森車の通過後まで遅らせる等の事故発生を防止する注意義務はなかつたものというべきである。まして矢作英明が緊急自動車である白バイを使用して違反車取締の緊急用務に従事していたことを併せ考えれば、なおさらのことである。してみれば、本件事故は、専ら森正夫の運転上の過失に帰因するもので、矢作英明には自動車の運転につき過失がなかつたものというほかない。
矢作英明が山形県警察官で同県警察本部交通機動隊庄内分駐隊に勤務するものであること、控訴人が地方公共団体であり、矢作英明が本件事故発生時国家賠償法第一条第一項にいう公権力の行使に当る公務員としてその職務を行つていたことは、当事者間に争いがないが、本件事故は、前記認定の如く専ら森正夫の過失に帰因し、矢作英明には過失はなかつたのであるから、控訴人には本件事故によつて生じた損害につき国家賠償法第一条による賠償義務はない。又自動車の運転者矢作英明には過失がなく、本件白バイに構造上の欠陥、機能の障害のなかつたことは、前認定のとおりであり、控訴人が本件白バイを所有し、これを自己のため運行する者であるが、自動車の運行に関し注意を怠らなかつたことは弁論の全趣旨から認めることができるから、控訴人には本件事故につき自動車損害賠償保障法第三条による賠償義務もないものといわねばならない。
(石田哲 上野 小林定)